Title:4 1日目(唐田えりか)

寝ても覚めても

 

 

翌朝、わたしのマンションで二人、目を覚ました。

ゆっくり朝を一緒に過ごしたいと思ったが、
彼はわたしを抱きしめ、キスをすると
「また、連絡するね」と部屋をあとにした。

 

一人、残されたわたしは、
部屋の窓を開けた。

秋晴れの空が広がっている。

 

昨夜のことが、まるで夢のようだった。
というか、この数か月の撮影の日々自体が、
全てわたしの夢のように感じられた。

 

わたしは、フィルムカメラで撮った
現場の写真を数々を眺めるなどして、
一日を過ごした。


燃え尽き症候群、とでもいうのだろうか。

 


夜は、久しぶりに姉と食事に出かけた。
「大人っぽくなった」と言われた。

 

 

帰宅し、そろそろ寝ようと思っていたところ、
彼から電話があった。

 

雑誌の仕事を終えて帰宅するところらしい。
他愛ない会話をして、2日後に会う約束をして
電話を切った。

 

 

 

 

東出昌大 唐田えりか 不倫 Story)

Title3: 終わりとはじまり(唐田えりか)

 

寝ても覚めても

 

 

 

これまでも恋はしたことがあったし、彼氏もいたし、
失恋もしたことがある。

でも、この想いはなんだろう。
彼への気持ちを自覚してしまってから
(でも、本当はもっとずっと前から)
心臓が、きゅっと痛い。

彼が決して手には入らない存在だからなのか
映画の撮影が終わってしまえば、もう会えなくなってしまうからか


わたしの想いに反して、
撮影はいよいよ最終日となった。
最後は、わたしが街中を走りぬけるシーンだ。


走りながらも、わたしは終わりなんてきてほしくなく
転んでしまおうか、とさえ思ったが
転ぶことなく、走り終えてしまった。
そして無事、クランクアップを迎えた。

挨拶の時には皆への感謝で泣いてしまったが
何だか実感がない。

映画としての完成や打ち上げはまだ日程があるので
この日は彼と二人だけで、「お疲れ会」をすることとなった。

彼行きつけのレストランの個室でお疲れ会は始まった。
彼はお酒が好きと聞いていたが、未成年のわたしに合わせ
ほとんど飲んでいないようだった。

撮影の思い出話などしていたら
時間はあっとゆう間に過ぎた。

「帰らなくちゃ、、」とひとり言のようにつぶやくと
彼が家まで送ると言い出した。

「悪いからいいよ」
「いや、えりかに何かあったら俺監督や皆に顔向けできないよ」


これからも、彼と会う機会はあるがろうが
これまでのように毎日一日中時間を共にするというのは、今日が最後だ。
わたしは、10分でも15分でも彼との時間を
延ばしたいと思ってしまい、彼に送ってもらうことに同意した。

タクシーに乗り込むと、
とたんに二人とも黙り込んでしまった。
奥に乗り込んだわたしの左手の小指と彼の右手の小指が、すこし触れ合っている。

わたしの心臓は激しく波打っていて、
そのドキドキ小指から彼に伝わってしまうのでは
ないかと不安に思った。
彼の小指からは、熱をかすかに感じた。

彼は、「えりかの手は、冷たいな」
とつぶやくと、彼の大きな手のひらでわたしの右手を包み込んだ。

 

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Title2: 寝ても覚めても(唐田えりか)

 

寝ても覚めても

 

 

撮影は順調に進んでいった。


わたしには全てが初めての体験で、全て吸収したいと必死だった。

人生で一番濃い時間が流れていた。

 


わたしと彼との関係性も時間とともにより濃いものに
なっていった。

 

わたしはどんどん「朝子」になっていったし、朝子はまるで私だった。

 

「麦」と「亮平」をわたしは朝子として深く愛した。

 

撮影が終わり家に帰っても、寝ても覚めてものことで頭がいっぱいで、

寝ていても、夢の中で寝ても覚めてもが続いているような感覚だった。

 

 

 

撮休でも、わたしは朝子を放したくなかった。

 

そんな想いが伝わったのだろうか、彼から

 「一緒に台本読みをしよう」と誘ってくれた。

 

 

貴重な休みにご家族との時間は大丈夫かという心配が
一瞬頭をよぎったが、

彼も今は撮影に没頭したいのかもしれないし、

 何より彼から演技を勉強させてもらいたかったので
誘いを受けることにした。

 

 

 


撮休当日は、初めての二人きりだったが、

驚くほど自然体でいられた。

 

 

わたし達のためだけに鍵を開けてもらった稽古場で多く時間を過ごし

ランチがてら近くの公園を二人で散歩をするなどして過ごした。

 

不思議と会話は途切れず

もちろん、本読みもとても有意義なものだった。

 

 

 


撮影は大詰めに入り、

残す日程はあと2週間というところになった。

 

 

わたしにとって、この撮影の日々は素晴らしく充実していて、

 ずっとずっと続いてほしいと

願わずにはいられなかった。

 

 

 

そして、同時に自覚してしまった。

 

 

わたしは「麦」と「亮平」だけでなく

 

「でっくん」を愛してしまっていると。

  

 

 

 

 

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Title1 : 出会い (唐田えりか)

愛してはいけないと、はじめからわかっていた。

でも、全てを失うという未来がわかっていたとして
彼に恋に落ちない道は、あったのだろうか?

 

寝ても覚めても

 

 

19歳の夏、彼に出会った。

 

女優としてはじめてつかんだ大きなチャンス。
オーディションに落ちる度、
私には無理じゃないかと何度も涙を流した。

 

映画の初主演。
絶対に、結果を残さなくてはと、
大きな期待と不安を抱えて初めての現場にいくと

初対面の彼は、大きく温かい手で私の手を握り、
くしゃっとした笑顔で「よろしく」と言ってくれた。

 

大人の男の人がくしゃっと笑う姿を
はじめてみた。

 

 

 

わたし達は、不思議と空気感が合った。

たぶん、最初から。

何気ない会話のテンポが合うのだ。

 

だから、演技も最初からしっくりときていたし、
初めての主演は難しいことも多かったけど、

 

彼がリードしてくれ、
彼を信じて、自分を出していくことができた。

 

わたしの力を引き出してくれる演技の先輩に出会えて、
わたしは幸せだと思った。

 

 


撮影の合間の時間では、少しずつ色んな話をした。

彼は意外にもたくさん冗談を言うひとで、
わたしは、その一つ一つがツボに入り
毎日ケラケラと笑っていた。

 

普段は人見知りな部分もあるわたしだか、彼を通して、
現場の皆と打ち解けることができた。

 

 


ある日の撮影から、わたしは趣味のフィルムカメラを持参し、
合間に、わたしの愛する現場の風景を撮るようになった。

 

現像した写真は皆から好評で、
監督からもを感性ほめてもらえた。

 

彼も気に入ってくれ、わたしは彼のことも何枚も撮った。

 

彼はモデルの経験もあるためかとても良い被写体で、
お気に入りの写真はinstagramへアップした。

 

 
また、ある日の撮影で
彼の冗談に思わず、「なに言ってるん!」と
タメ口でつっこんでしまった。


はっと、謝ろうとするわたしに
彼は「今日から、敬語は禁止ね」と微笑んだ。

 

呼び方も「でっくん」と彼とわたしの間だけの愛称で
呼ぶことになった。

 

 新人で10も歳が下の私に対し、対等に関係を
築こうとしてくれるのが嬉しかった。

 

 

 

 

 

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