Title3: 終わりとはじまり(唐田えりか)

 

寝ても覚めても

 

 

 

これまでも恋はしたことがあったし、彼氏もいたし、
失恋もしたことがある。

でも、この想いはなんだろう。
彼への気持ちを自覚してしまってから
(でも、本当はもっとずっと前から)
心臓が、きゅっと痛い。

彼が決して手には入らない存在だからなのか
映画の撮影が終わってしまえば、もう会えなくなってしまうからか


わたしの想いに反して、
撮影はいよいよ最終日となった。
最後は、わたしが街中を走りぬけるシーンだ。


走りながらも、わたしは終わりなんてきてほしくなく
転んでしまおうか、とさえ思ったが
転ぶことなく、走り終えてしまった。
そして無事、クランクアップを迎えた。

挨拶の時には皆への感謝で泣いてしまったが
何だか実感がない。

映画としての完成や打ち上げはまだ日程があるので
この日は彼と二人だけで、「お疲れ会」をすることとなった。

彼行きつけのレストランの個室でお疲れ会は始まった。
彼はお酒が好きと聞いていたが、未成年のわたしに合わせ
ほとんど飲んでいないようだった。

撮影の思い出話などしていたら
時間はあっとゆう間に過ぎた。

「帰らなくちゃ、、」とひとり言のようにつぶやくと
彼が家まで送ると言い出した。

「悪いからいいよ」
「いや、えりかに何かあったら俺監督や皆に顔向けできないよ」


これからも、彼と会う機会はあるがろうが
これまでのように毎日一日中時間を共にするというのは、今日が最後だ。
わたしは、10分でも15分でも彼との時間を
延ばしたいと思ってしまい、彼に送ってもらうことに同意した。

タクシーに乗り込むと、
とたんに二人とも黙り込んでしまった。
奥に乗り込んだわたしの左手の小指と彼の右手の小指が、すこし触れ合っている。

わたしの心臓は激しく波打っていて、
そのドキドキ小指から彼に伝わってしまうのでは
ないかと不安に思った。
彼の小指からは、熱をかすかに感じた。

彼は、「えりかの手は、冷たいな」
とつぶやくと、彼の大きな手のひらでわたしの右手を包み込んだ。

 

東出昌大 唐田えりか 不倫 Story)